新しい共生スキームについては、国、千葉県、空港会社によるプロジェクトチームで検討が重ねられ、新しい共生の枠組みについて方向性が示されました。昨年12月、国、千葉県、空港会社、共生委員会による四者協議でこの内容について合意し、共生委員会本会議でも了承されました。

 「共生」という考えは、成田空港の建設過程で激しい反対闘争が発生し、その後、地域と国との間で話し合いにより問題を解決しようという機運が高まり、シンポジウム・円卓会議を経て導き出されたものです。その中で、共生委員会や共生財団など「成田方式」といわれる制度ができ、多くの環境対策・共生策が進められてきました。

1.これまでの共生スキームの活動と成果
共生委員会
 共生委員会は、1995年(平成7年)に発足し、以来、成田空港からマイナスの影響を受ける住民の立場に立って空港の運用と建設をチェックする第三者機関として、「共生」の実現、地域と空港との信頼関係の強化に貢献してきました。
 主な業務は、円卓会議の合意事項22項目についての点検です。共生委員会は、この点検活動を通じて空港と地域住民との信頼関係の構築に中心的な役割を果たし、成田空港建設計画の閣議決定から40余年を経て、この地に「共生の時代」をもたらしたといっても過言ではありません。
 各委員は、個々の利害に左右されずに公平中立、かつ独立した立場で問題解決に取り組み、多くの成果をあげました。また、空港会社が行う情報公開をチェックし、地域住民の目線で、情報の公表やパンフレットの作成、広報誌の発行などを要請してきました。
 さらに、空港周辺の騒音対策協議会、空港対策協議会など住民団体との交流、フォーラムの開催などを通して、「共生」の理念が地域に普及するよう努めてきました。
関連プロジェクト
 歴史伝承プロジェクトについては、1997年(平成9年)、共生委員会のもとに歴史伝承部会が発足し、2004年(平成16年)、財団法人航空科学振興財団に移管され、歴史伝承委員会として活動しています。この間、地域の風土や歴史をも含め、成田空港問題の発生から対立、そして共生に向けた全過程について調査研究し、その成果に基づいて2度の企画展示を行うなど、精力的に活動を展開してきました。
 地域づくり部会は、プラスの創出に向けて共生委員会に設置され、2004年(平成16年)、地域振興連絡協議会に移管され、現在に至っています。

2.新しい共生スキームへ
 成田空港を取り巻く状況の変化に伴い、成田空港は、2004年(平成16年)、公団から政府が全額保有する株式会社になりました。現在、株式を上場し民営化する方向で検討が進んでいます。
 2010年(平成22年)には平行滑走路が2500m化され、発着回数は22万回になります。また、空港会社は、空港周辺の9市町で構成する「成田国際空港都市づくり推進会議」の諮問にこたえて、すべての課題がクリアされた場合、最大30万回までの処理が可能であると説明しました。
 一方、地域にも「共栄」という考えが広まりつつあります。
 今後は、このような新たな課題に対応するため、「共生」の理念を堅持しつつ、共生委員会に代わる新しい体制の構築が急がれます。
基本的な考え方
 新しい体制においても、「共生」の理念を着実に継承していくことが不可欠です。共生委員会が住民の目線で取り組んできた姿勢も、引き継がれなければなりません。また、共生委員が個別利害を超えて地域全体のために発言してきた伝統も継承されるべきです。
新しい共生スキーム
 地域と空港の対話の場を確保するなど「共生の理念」を引き続きベースとして、マイナス面だけでなく、プラス面の新たな課題にも対応できる体制を構築します。ただし、空港会社の法制度や株式上場問題など流動的な部分があるため、新共生スキームのあり方については、関係者間であらためて検討することとします。
暫定的な組織体制で
 新共生スキームの構築には、現在の状況から見て相当程度の期間(1〜2年)を要することから、当面、2009年(平成21年)4月1日から暫定的な組織を発足させます。
 この暫定組織においても、「共生の理念」をベースに、マイナス面に関する事項と並行してプラス面の新たな課題にも対応していきます。


 さる12月22日の共生委員会で、空港会社は、常設展示館への今後の進め方を以下のように提案しました。

1.NAAプロジェクトチームの設置
 NAAは国、千葉県など関係者の協力を得て、社長の諮問機関として、プロジェクトチームを設置する。
 体制は、座長を地域共生担当役員、構成員をNAA、国、千葉県、航空科学博物館、歴史伝承委員会顧問・座長・座長代理とする。
 また、歴史伝承委員会の委員を主体とした地域専門部会をおく。
2.取り組むべき課題
●施設設置場所の決定。
●施設の規模、機能の検討と実現。
●施設の運営方式、とくに第三者性・公平性の確保について検証し、具体化を図る。
3.収集資料の帰属
 国、千葉県などと調整し結論を出す。

 これらの提案について、委員は、「歴史伝承委員会は十数年にわたり、空港設置者、反対する側、協力して移転された方々から、膨大な資料を収集してきた。この収集、分類、分析などの実務を進めてきた事務局スタッフをどうするのか言及されていない。彼らの協力なしには、展示は実現しない。それから、元小川プロ資料の扱いだが、小川プロはドキュメンタリー映画の世界では、世界的に地位を得ている。その三里塚部分の貴重な資料が全てここにある。今後も、これらの扱いに精通した人材が必要だ」と質しました。
 これに対して空港会社は、「ご指摘の通りだ。運用面で工夫していきたい。施設は地域の人と一緒に作り上げたい。元小川プロ資料については、施設の中に映像機能を設ける。当然、経験のある人がやっていかないとできないと思っている」と答えました。
 山本代表委員は、「資料の保管、整理、分類その他をこれまで事務局がやってきた。今後も当然力を借りなければいけない。元小川プロ資料の場合、フィルムの劣化を防ぐ努力をしてきたのは歴史伝承委員会の功績だ。これについては今も進行中なので、今後も対応しなければいけない」と述べました。


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