共生委員会だより vol.50
 成田空港周辺では、暫定平行滑走路の供用後、2本の滑走路からの騒音値が1本の滑走路からの騒音値より低くなるという逆転現象が起きています。また、住民にも、騒音値のWECPNL値が生活感覚とずれているという声があります。
 成田市は騒音に関する住民への調査を行い、環境省も、昨年12月17日、国際的動向に即してLdenという指標を採用すると告示しました。
 共生委員会では、合意事項点検作業の一環として、騒音評価指標(Lden)研究会(座長:河宮信郎代表委員代理)を設置し、この問題を把握するために研修を重ねてきました。

研修1 

「地域の環境と生活に関する調査」について
2007年(平成19年)8月21日
お話:京都大学大学院准教授 松井利仁氏

・成田市と京大大学院は、2005年(平成17年)と2006年(平成18年)に、W値を含む航空機騒音評価量と実際の住民反応を把握するため、成田空港周辺住民を対象にアンケート調査を行った。
・WECPNLやLdenなど1日を平均して評価する指標では、夜の睡眠妨害を評価できない。これはWHOガイドライン等でも指摘されていたが、今回の調査でも確認された。健康影響を防ぐためには、睡眠妨害を評価できる指標(LAmax,night 、N70dB,night など)が必要である。
・平行滑走路の離着陸の影響を受ける地域では、供用開始に伴い、騒音感受性が高くなっていた。今後十分な時間の経過により、4000m滑走路と同様の「慣れ」による反応率低下が推測される。
・しかし、調査結果から騒音に慣れることのできる住民は約2割とごく一部に限られ、多数は適応できない。また、適応できても、聴取妨害や睡眠妨害がなくなる訳ではなく、身体的影響の生じる可能性がある。
・この調査では、聴取妨害、睡眠妨害に対する住民の耐容限度を得たが、現環境基準を満たしても、無視できない比率で単発騒音による生活妨害が生じていることが明らかになった。
・今回の調査から、住民反応に基づいた環境基準値を提案する。
提案された環境基準値

うるささ, 聴取妨害:
 Ldenで50〜55dB,
 LAeq,dayで45〜50dB
睡眠妨害:
 L Amax,night で60dB,
 N70dB,night で1〜 2 回/年
Ldenとは
  Lはレベル
  Dは昼 day
  Eは夕方 evening
  Nは夜 night

ALeq 平均値
LAmax,night 最大値


研修2 

「航空機騒音に係る環境基準の改正について」
2007年(平成19年)10月26日
お話:環境省水・大気環境局大気生活環境室 山下雄二氏

・近年、騒音の測定技術が向上したことにより、国際的にエネルギーベースの評価指標(LAeq 、Ldenなど)が採用されていることを踏まえて、WECPNLからLdenに評価指標を変えることになった。これにより、逆転現象は発生しない、さらにエネルギー加算を行うので、着陸時の逆噴射等の地上音を含め、総合評価を行うことができる。
・常時測定についてはマニュアルを整備する検討を始めた。

今後の対応
 「逆転現象」は従来のW値算式に不備があったためと分かり、より正確な算式に改めることで解決されるとの報告がありました。しかし、「W値が実感と合わない」という不満が解消されたとはいえません。
 今回の研修で委員は「我々の身体は平均値ではなく、1回1回の騒音によって大きな影響を受けることが証明された」と感想を述べました。WHOは、1回の大きな騒音もガイドライン値に加えています。
 単発騒音については、騒音評価指標(Lden)研究会での研修から、重要な示唆を得ることができました。
 松井准教授の報告によると、住民の健康影響やストレスを左右する要因は、W値やL値で表される「平均的な騒音レベル」よりもむしろ、単発騒音による生活妨害の起こる頻度であるといいます。
 これらの生活妨害を起こす「単発騒音」を評価する指標を設け、規制する提案をしていますが、これは騒音評価を「生活実感」に応えるものとするうえで有益な提案と考えます。
 共生委員会では、現行基準の枠内でも、「生活妨害」を起こすような単発騒音を防止することによって、住民の騒音ストレスを軽減するために著しい効果を期待できることから、そのための努力を求めました。


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