共生委員会だより vol.50


 共生委員会は、成田国際空港株式会社(NAA)の完全民営化に向けた新しい共生の枠組みを構想しようと、「共生スタディグループ」を設けました。4月16日の初会合では、国土交通省とNAAから、現状や今後の見通しを聞きました。その内容をご紹介します。
 

◇国際拠点3空港の民営化

 我が国の国際拠点空港( 成田、関空、中部の3空港)は、いずれも日本の国際競争力を左右し、国益に大きな影響を持つ空港であり、大変重要なものです。
 現在、国際航空需要は急増しています。その中心となっているアジア各国では複数の滑走路を持つ大空港が整備されています。日本も成田の平行滑走路北伸や羽田の4本目の滑走路の整備、関空の第2滑走路等着実に整備をしていますが、そうしたハード面の充実だけでは十分とはいえません。空港経営のコストを削り、航空事業以外の収入を増やして空港利用料を引き下げなければ、国際競争力を保てないのです。
 国際拠点空港の完全民営化は、2002年に閣議決定されました。行政改革の一環で、政府保有株を売却して国有財産を圧縮すると同時に、民間の活力によって空港経営を効率化しようという狙いです。関空と中部の完全民営化はまだ先ですが、成田は先んじて完全民営化への道を歩んでいます。
 さて、民間企業が空港事業を担うとすれば、さまざまな懸念もあります。そこで国交省は2006年10月、この問題について航空局長の私的懇談会をつくり、国際拠点空港を完全民営化しても適正に管理・運営できるようにするための具体的方策を検討してきました。多くの関係者から意見を聞き、海外の動向も調べて議論を重ね、今年3月27日に結論をまとめました。この結論は国交相の諮問機関である交通政策審議会の航空分科会に報告され、6月の最終答申に盛り込まれます。今後は答申をもとに3空港の完全民営化に必要な法案を作り、早ければ来年1月の通常国会に提出し、国会で順調に審議頂ければ、夏までに成立する予定です。

◇懇談会の結論

 懇談会では完全民営化への課題を5点に分けて整理し、解決策の方向を示しました。

●航空政策と経営方針の不整合
 空港会社株を売却すれば、国は株主としての発言権を失います。航空政策として滑走路や発着枠の増強を決めても、空港会社が「経営判断したところ無理です」と言うかもしれません。こうした事態を避けるには、例えば、まず国側が空港の明確な将来像を示した航空政策を決め、空港会社が国の政策に沿った基本的な事業計画を立てるような制度にしなければなりません。また、制度を作るにあたっては、利用者や地域への説明が欠かせません。空港会社が資金不足を理由に事業計画をゆがめてしまわないよう、必要な投資を確保する枠組みを整えることも検討する必要があります。
 
●地域独占企業の弊害
 空港建設には巨額の資金が必要なうえ、代替施設がないため、地域内では独占的な企業になります。半面、「利益を増やせ」という株主からの圧力によって、空港利用料が高止まりしたり、サービス水準が低下したりする心配があります。そうならないよう、空港利用料については必要最小限のルールを定めなければなりません。料金決定の透明性を確保するのも大切です。その一方で、航空事業以外では空港会社の創意工夫次第で増収を図れるようにします。増収分をどのように利用者に還元するかも検討課題です。

●敵対的買収の回避
 空港は公共性の高い施設です。「単なる金儲けの道具だ」と考える人々が空港会社の大株主になり、経営権を握っては大変です。こうした事態を防ぐため、外資の参入や一株主による大量保有を制限すること、敵対的買収の対象にならないための抑止力となる「拒否権付株式」の発行を検討します。ただし、株式の流動性が低下することや、経営陣が市場圧力に無関心でいられるような状況は好ましくありません。

●環境対策・地域共生策
 空港会社の経営姿勢次第で、騒音などへの環境対策や地域共生策が切り捨てられたり、利用者へのサービスが犠牲になったりしてはたまりません。環境・共生策の実施を、どのように空港会社に義務付けるかは、きわめて重要な問題です。現在は特殊会社なので、空港会社法で環境・共生策を義務付けています。しかし純粋な民間会社になると、法律による義務化は難しくなります。憲法で保障された財産権の自由を制約するには、それなりの根拠が必要との意見もあるからです。「事業一般で留意すべき事項」として法律に書き込むことはできるでしょうが、拘束力は弱まります。
 経営陣が交替しても、将来にわたって環境・共生策を実施できるよう、国・空港会社・地域社会が十分に話し合い、新しい仕組みを考えなければなりません。

●その他の課題
 空港会社株を市場に評価してもらうには、他にも解決すべき問題があります。とくに最初に民営化される成田の場合、羽田空港との役割分担や、平行滑走路の北伸2500m化の後をどのようにするかなど、企業の成長性・将来性に関わる課題を整理しておかなければなりません。


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