共生委員会だより vol.46

 円卓会議合意事項の点検は、共生委員会の主要業務のひとつです。空港公団の民営化を機に、共生委員会は、過去の点検の結果、多くの事項が改善されたこと、あらたな問題が顕在化したことにより、この点検内容を見直し、「今後中心となる課題」(5項目17課題)に力点をおいて点検しています。
 今回は、2項目4課題について点検しました。

●W値の逆転現象への対応

取り組みの経緯 
 2002年(平成14年)4月の暫定平行滑走路供用後、単独滑走路のW値よりも4000m滑走路と暫定平行滑走路のふたつの滑走路を合わせたW値が低くなるという逆転現象が生じました。
 共生財団の測定結果では、2002年度(平成14年度)は、空港周辺101局のうち6ヵ所で最大マイナス0.03W 、2003年度(平成15年度)は、102局のうち20ヵ所で最大マイナス0.047Wの過小評価が確認されました。
 2002年(平成14年)6月には成田市が、また2004年(平成16年)7月には千葉県と空港周辺9市町村が、環境省にWECPNLによる評価方式の改善を求める要望書を提出しました。

現状
 国土交通省は、この事実を環境省に伝え、早急に改善を図ることが適切と説明しました。
 環境省は、2003年度(平成15年度)より5年程度かけて、W値を含めた我が国の騒音評価基準を見直す方針を出し、2004年(平成16年)12月、「航空機騒音に関する評価方法検討委員会」を設置しました。これまでに4回の委員会が開催され、この検討結果はインターネットでも公開されています。
 
問題点と今後の対応
 現在、我が国で用いられているWECPNLは、1969年(昭和44年)にICAO(国際民間航空機関)が提唱したWECPNLを我が国で簡略化した評価方式です。
 ICAOは、1985年(昭和60年)以降、従来のWECPNL方式を削除し、人間の感覚に近いといわれる等価騒音レベル(LAeq)を基本とした評価指標を採用しており、諸外国でもこれが主流となっています。
 我が国のWECPNL評価は、年間の平均値で計算されていますが、離陸機が、夏は空港南側に、冬は空港北側に集中するという実情が反映されていないという住民の指摘があります。さらには、飛行している航空機騒音のみが対象で、地上の営業騒音は評価することができません。
 共生委員は、「我が国の評価方式には、もともと不備があったから逆転した、そこをつきとめる必要がある」と、指摘しました。
 これに対して、国土交通省は、「我々も、この評価方法検討委員会の委員の一人でもあり、逆転現象をなくせばいいというのではなく、きちんとエネルギー換算をするという主旨で見直しをしている」と、述べました。
 環境省が「評価方法検討委員会」を設置し検討していることは評価できます。共生委員会は、この見直しで、改正の際に住民が不利にならないよう注視していきます。また、検討内容をわかりやすく公開するよう、千葉県、国土交通省、空港会社から申し入れをすること、さらに、諸外国の指針・基準との比較や共有ができる方式が採用されるよう、国土交通省から働きかけること、などを要請しました。

●飛行コースの遵守

取り組みの経緯
1.飛行方法について
 千葉県は国土交通省に対して、1971年(昭和46年)1月、航空機の降下角度を3度にすること、北向きに着陸復行するときは利根川上空まで直進上昇すること、千葉県上空での飛行高度は6,000フィート以上とすること、続いて1973年(昭和48年)5月、九十九里浜から利根川までの間は直進上昇・直進降下をすることなどを要望し、国はこれらを遵守すると約束しました。
 さらに国は、1999年(平成11年)4月までに「平行滑走路供用開始後の標準飛行コース」について、関係自治体、地域住民に説明し、了解を得ました。また同年8月、「暫定平行滑走路に係る標準飛行コース」についても説明をしたということです。

2.飛行コース幅の設定
 開港以来、住民から「飛行コースが守られていない」という不満の声が上っていました。
 そもそも、航空機は線上ではなく相当な幅をもって飛んでいます。ところが、住民は、飛行コースは線であると思ってきたのです。
 1996年(平成8年)7月、国は、ICAO(国際民間航空機関)等の基準に則して、安全確保のために飛行コースに幅が設定されていることを共生委員会の場で説明しました。
 さらに1998年(平成10年)9月、航空機騒音の影響を最小限にするため、利根川から九十九里浜までの4000m滑走路の直進上昇・直進降下部分に「飛行コース幅」を設定し、AIP(航空路誌)にその旨を記載しました。
飛行コース幅
4000 m滑走路 :利根川地点で2.5 km、九十九里浜地点で4.5km
暫定平行滑走路:利根川地点で1.9km、九十九里浜地点で5.0km

現状
 空港会社は、1998年(平成10年)3月より、航空機の飛行経路を航跡図として情報公開し、2000年(平成12年)4月より動画にして公開しています。
 また空港会社は、1999年(平成11年)1月より、航空機が飛行コース幅から逸脱していないか、監視を始めました。その結果、合理的理由をともなわない逸脱機については、航空機の便名と逸脱理由を公開し、国土交通省はその航空会社に再発防止の指導をしています。
 さらに2000年(平成12年)10月より、空港会社は、雷雲回避や着陸復行など「通常と異なる飛行」があった場合は、その航空機の便名や理由を関係自治体等に連絡しています。
逸脱航空機数の推移(年間値)
年 度 合理的な理由がなく
幅を逸脱した航空機数
合理的な理由で
幅を逸脱した航空機数
着陸復行機数 航空機
発着回数
1998(H10) 0  0.000% 178  0.781%     22,787
1999(H11) 20  0.015% 1,002  0.753%     133,112
2000(H12) 18  0.014% 758  0.570%     133,046
2001(H13) 20  0.016% 445  0.345%     129,000
2002(H14) 22  0.012% 369  0.209% 228 0.129% 176,365
2003(H15) 21  0.012% 312  0.182% 241 0.141% 171,127
2004(H16) 26  0.013% 411  0.220% 343 0.184% 186,633
○1998(H10)年度は、1999年(H11年)1月28日〜3月31日のデータです。
※「合理的な理由」は、雷雲回避や横風の影響、緊急状態等をさす。
※ %は、発着回数に対する割合。

問題点と今後の対応
 国・空港会社がおこなってきた地域への連絡や情報公開については評価します。しかし、住民からは、いまだに飛行コースが守られていないという声が後を絶ちません。また、着陸復行は、安全上やむを得ない措置とはいえ、住民から多くの苦情が寄せられています。
 共生委員会は、逸脱機について、航空会社への再発防止に向けた指導を継続するとともに、原因を分析するなど、逸脱機を減らすための努力をするよう求めました。
 着陸復行は、地域住民にとって不安な出来事です。まずは極力減らす、そして、住民の不安を取り除くため、関係自治体とも協力して状況を丁寧に説明するなど、できる限りの努力をするよう要請しました。

●発生源対策として、今後も航空機の低騒音化に取り組む

取り組みの経緯
 国土交通省は、1994年(平成6年)6月、ICAO条約(国際民間航空条約)に基づいて航空法を改正し、騒音の少ない新基準機(チャプター3)の導入を進めてきました。また、高騒音機の運航を、1995年(平成7年)4月から7年間かけて段階的に禁止してきました。さらに2002年(平成14年)10月、空港会社がACI(国際空港評議会)へ提案した「ACI騒音インデックス(航空機騒音格付け指標)」という騒音低減策が採択されました。これは、より低騒音の航空機導入を促進するため、チャプター3適合機の騒音値を6段階にわけたものです。

現状
 ICAO(国際民間航空機間)では、2002年(平成14年)3月、最新基準であるチャプター4を制定し、2006年(平成18年)1月以降の原型機から適用するということです。現在、ACIはICAOに対して、チャプター4よりさらに厳しいあらたな基準を制定するよう働きかけています。
 2005年(平成17年)6月、空港会社は、IATA(国際航空運送協会)に対し、成田空港の国際線着陸料を「ACI騒音インデックス」に基づき、騒音値が低い機材ほど料金が低くなるよう設定することを提案しました。
 
問題点と今後の対応
 内陸空港にとって航空機の低騒音化は重要な問題であり、積極的に取り組んでいる国・空港会社の姿勢は評価できます。
 しかし、低騒音化によるメリットは飛行回数の増加で相殺されて年間の騒音値は開港以来ほぼ横ばいとなり、住民にとってメリットが感じられません。
 共生委員会は、「ACI騒音インデックス」に基づく着陸料設定で、低騒音機の導入が進むようさらなる努力をすること、より厳しい基準制定についても、実現へ向けて働きかけること、これまでの低騒音機導入の取り組みが、地域住民に周知されるよう努めること、などを要請しました。
 低騒音化によって、騒音によるマイナスの影響を受ける住民がメリットを受けられるよう、その効果を注視していきます。
 

●再発防止―とくに北側からの着陸時の対策

取り組みの経緯
1.洋上脚下げの徹底
 機体に付着した氷塊の落下原因は、航空機が着陸するために脚下げをした際の振動であると考えられています。そのため、1991年(平成3年)1月、国土交通省は、南側から進入する航空機について、洋上で脚下げをするよう航空会社に要請しました。
 その後、1993年(平成5年)5月、洋上脚下げ方式をAIP(航空路誌)に記載し、1996年(平成8年)5月からは、ATIS(飛行場情報放送業務)において航空機に放送して遵守の徹底を指導してきました。
 また、国土交通省と空港会社は、氷塊落下が冬の北風時に発生していることから、1998年(平成10年)より毎年冬季に航空機洋上脚下げ点検をおこない、共生委員会も定期的にこの点検に参加してきました。
2.航空機氷塊付着状況調査の実施
 1998年(平成10年)2月以降、毎年冬季に2週間程度、成田空港では全着陸機を対象にして氷塊が付着しているかどうかの調査をしています。
3.航空会社への整備徹底の要請
 1991年(平成3年)以降、航空会社がおこなう出発地での整備・保守を徹底させるため、乗り入れ航空会社に対し指導・要請してきました。
4.外国政府への働きかけ
 国土交通省は、各国政府に対しても、1997年(平成9年)以降、落下物防止に向けた取り組みへの協力を要請してきました。
 1998年(平成10年)の航空機氷塊付着状況調査において、氷塊付着の原因が、排水パイプ系統などからの漏えいと考えられたため、米国連邦航空局や航空機製造メーカーに対して、機体の構造改善を検討するよう要請しました。翌年、米国連邦航空局は、「耐空性改善命令」を出し、国土交通省も同様の「通報」を出しました。

現状
 落下物発生は、1989年(平成元年)をピークに大幅に減少しています。
 洋上脚下げの遵守率は、2004年度(平成16年度)調査では99.8%でした。国土交通省は、今後も遵守の徹底を指導するとしています。
 航空機氷塊付着状況も改善されています。2004年度(平成16年度)の調査では、着氷機数は、2,148機のうち2機で、1997年度(平成9年度)に比べて十分の一(1/10)にまで減りました。着氷機については、航空会社に事情説明を求め、航空機点検整備の徹底を指導しているということです。
 北側からの着陸時の対策は、航空機氷塊付着状況調査、着氷航空機へのフォローアップ調査などの基本的な対策を徹底することで着氷の原因をなくす努力をしています。

問題点と今後の対応
 落下物が大幅に減少したことは評価できますが、根絶には至っていません。
 とくに北側からの着陸時の対策については、基本的対策が重ねられていますが、住民に十分理解されているとはいえません。
 共生委員会は、国土交通省に対して、北側からの着陸時の対策こそが今後中心となる課題であることを認識して、より効果的な対策を模索するとともに住民にわかりやすく知らせるよう求めました。また南側からの着陸時の対策として、洋上脚下げ点検、航空機氷塊付着状況調査を継続するとともに、さらなる有効な対策の検討を求めました。

※当時の運輸省・空港公団は、現在の名称で掲載しています。



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