共生ワーキングループ

◆騒音評価指標Lden研究会研修
 
日  時: 2007年(平成19年)8月21日(火)午後2:30〜
場  所: 成田空港地域共生委員会事務所
出席者: 国土交通省、空港会社、千葉県、成田市、芝山町、共生財団、共生ワーキンググループ、共生委員会運営チーム

◇座長あいさつ
 資料「Lden研究会 コンセプト」により、次のような問題点が述べられた。
 物理的な振動エネルギーを騒音レベルに換算していくプロセスが適切であったかどうかという問題として捉え返す必要がある。
 人間の感覚で騒音として認知されるプロセスと、物理的なエネルギーを騒音レベルLに換算していくプロセスが一致しているかどうか。ここがずれていると、どんなに厳密な計算をしても我々の実感とずれてくるという問題は解消されない。
 
◇講演
  「地域の環境と生活に関する調査」 京都大学大学院准教授 松井利仁
 
◇意見交換
Q: 睡眠妨害や聴取妨害という身体影響は、1回大きな音を浴びてしまうと影響が出る。それに対して従来の基準は徹底的に平均主義で、極端な場合には発着の多い日とない日を平均し、環境基準を設定する。我々の体は平均操作をして騒音を感じるわけではなくて、1回1回の音を聞いているわけだから、睡眠妨害、聴取妨害という形で単発的な騒音の評価をきちんとしようという研究が進んでいるのはたいへん心強い。
 気にしない、慣れということも起こる。気にしないという心理的な適応があったとしても、身体的な不適応が存続して悪影響をきたすことはありうる。この辺りを今のご講演で非常に明解に示されたと思う。
 そうすると、W値が低くても単発的に大きな音が起こってしまえば影響を受ける。簡単に言ってしまえば、そういうことが睡眠妨害や聴取妨害に繋がっていくというふうに感じられるわけだが、こういう研究結果が公的な基準に取り入れられていくという論理はどの程度行われているのか、また起こりつつあるのか。
A: Leqという一種の平均値がさまざまな分野で使われるようになった。研究者の間でLeqは、欠点はあるけれどもある分野では指標としては良いだろうというコンセンサスが得られている。ただ、単発的な音の睡眠妨害については無理がある。影響という点で見ると、平均値というのは単発的な音には使えない。かなり交通量のある道路や、ずっと音が鳴っているような工場騒音であればLeqでも問題はない。Leqは対象を選べば優れているが、すべてに適応できるわけではない。
Q: 先生が提案した環境基準値は実際に住んでいる私どもにとって非常に頷ける数字である。ただ、成田の場合は、現在こういった基準を大幅に超えた状況で運用されている。例えば、こういった環境基準を設定した場合、成田空港の運用に大きな支障が出るだろうと思う。この環境基準に適合させた場合に、航空機の発着回数などに、どの程度の影響が出るか。
A: 我々は騒音の健康影響という点に着目し、空港に限らず道路、幹線等を対象に調査を行っていて、睡眠妨害がいちばん関与しているという結果が出ている。成田の場合、23時以降はないということだが、夕方以降の騒音による反応が強いというところまでは分かっている。とくに睡眠妨害を防ぐというところは、健康影響が生じるという点では必ずクリアすべきところではないか。そういう意味では、夜間の離発着の制限をもっと徹底的にやらないといけない。成田での健康影響、いろいろな水準があるが、どういうものが生じているかは、今回の調査ではアンケートの回答に基づくものしか出てきていない。実際に心疾患のようなことが仮に起こっているとすれば、これは公害病であるから、他の公害問題で行われているような対策をすべきである。今回のアンケート調査ではそこまではっきりとしたことをいうのは難しいが、夜間の騒音を、今23時のところを22時とか21時にする、あるいは早朝6時から飛び始めるということだが、そういったところを制限して、昼間については、便数はすでに枠いっぱいであるとは思うけれども、もう少しゆるい基準でもいいのかもしれない。
 私は、健康影響の基準値と生活妨害やうるささみたいなものの基準値は別扱いすべきではないかと考えている。健康影響の基準値が睡眠妨害に基づくのであれば、絶対に守ってもらわないといけない。生活環境の基準値については、環境基準の定義をそのまま言えば望ましい基準ということになるから、ある程度超えてもやむをえないというのがあるのかもしれない。
Q: 健康影響ということで言えば、確かに夜間の発着は潜在的な心身への影響があるだろうと思う。実際に、難聴や寝つきにくいというのがあるようだ。近所の人の様子を見ていると、顕在化しない形で存在しているような感じは持っている。
A: 健康に関わるグラフはあくまでアンケートの回答で、騒音で起こったのか、日ごろのほかのストレスや生活習慣で起こったのか区別がつかない。単純に計算すると、日本全体で1年間に200〜2,000人が騒音で亡くなっている。これは無視できない数ではないか。嘉手納基地周辺では、騒音で高血圧になっている方が数百人おられる。さらにその何割かがそれがもとで亡くなられているかもしれない。そういうものが積もり積もって200〜2,000人という数になる。これまで騒音は、生活妨害やうるささみたいな精神的な影響のみに取り上げられることが多かったが、我々やヨーロッパの調査で分かってきているので、単に生活妨害、うるささではなくて、健康影響という点からみてここだけは譲れないという部分と、環境基準に書いてあるような望ましいという部分をきちんと区別して考えるべきではないか。
 
◇総括
 最も印象に残ったことの1つは、W値の問題点。以前から我々が肌身で感じる騒音とW値とが合わないという問題がずっとある。今日のお話で角度を変えて分析してみると、なるほどこういう問題があるなということが分かってきた。W値の持つ問題点もはっきりしてきたように思う。今度、環境省が新しい指針を出されて、L値でやっていこうということになると思う。問題があるとすれば、成田は極めて大規模な内陸空港で、同じ国際拠点空港といっても、海上にある関西や中部とはまったく違う。羽田は国内の拠点空港であるが、これも半分以上は海上である。こういうことになると、大規模な内陸空港である成田をどういうふうに位置づけていくかという問題が残る。L値で全国一律の対応を考えるのは政府なり国の対応としてありうる話であるが、成田独自の方式があるのかないのか。その方式というのは、例えば基準値の設定の仕方、あるいは基準値を設定したことに対して行政的な対応があるのかないのか。私ども共生委員会としては、研究会で座長のリーダーシップの下に、関係者の皆さんにご協力をいただいて勉強していきたいと思っている。いずれにしても、日本最大の国際拠点空港「成田」がここに存在して運用されている。紛れもなく、騒音問題がある。そういう中で空港の運用なり、騒音問題を含む環境への対応、これをどうやって折り合いをつけていくかは、ものすごく難しい問題。これから研究会で勉強していくので、機会があればまたご指導願いたい。


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