2009(平成21)年1月9日
      共生委員会第7期 総括

はじめに
 共生委員会は、第7期において、空港会社の完全民営化が迫ってきたことに加え、成田空港問題をとりまく状況が大きく変わってきたことから、活動方式を改め、新しい体制で業務に取り組んできた。
 そうした状況のなかで、空港周辺地域での共存共生から共栄への動き、新しい共生スキームの検討など、さまざまな対応に追われたが、国、千葉県、関係市町、空港会社の協力もあって、地域と空港の共生は実現へ向けて着実に前進し、新しい第一歩を踏み出すことができたと考える。
 
1.第7期における新しいアプローチ
(1) 円卓会議合意事項点検の更なる重点化
 共生委員会の主要業務である円卓会議合意事項の実施状況の点検については、懸案の多くが解決に近づき、ほぼ所期の目標に近づいてきたことから、対象項目を一層絞り込んで重点化し、単に点検というだけではなく、問題を具体的かつ発展的に解決するという視点で臨んだ。
 
(2) 双方向対話型の具現
 業務を進めるにあたっては、地域住民と空港関係者の間で、双方がより広く問題をとらえて積極的に情報を提供し、責任ある言動で向かい合って前向きな結論を出すことをめざすという、いわゆる双方向対話型の実現をめざして取り組んだ。
 
(3) チーム、グループの設置
 第7期においては、業務全般を統括し方向づける運営チーム、設置要綱に規定される本来の業務を行う共生ワーキングループ、新しい共生スキーム形成に向けた準備のための業務を行う共生スタディグループを設置し、新しい体制のもとで業務を推進した。
 
(4) 共生スキームのあり方の検討
 新たな共生スキームの構築については、国、千葉県、空港会社で構成するプロジェクトチームでの検討に委ねられてきたが、共生委員会はもとより、共生財団など関係機関、歴史伝承プロジェクトなど関連事業も含め、幅広い範囲の事象を対象とされた。
 このため共生委員会としては、その作業の進捗状況を見ながら、共生スタディグループを中心に対応について議論を深め、意見の集約を図った。
 
2.業務の実施状況
(1) 共生委員会運営チーム
 共生委員会活動を円滑かつ効率的に行うため、先導的役割を果たし、共生ワーキンググループ、共生スタディグループが行う業務の方向性などを協議した。
 
(2) 共生ワーキンググループ
点検業務
1) 円卓会議合意事項
イ. 全項目の検証
 国、空港会社の真摯な対応によって、合意事項のかなりの部分は解決に近づき、点検業務は相応の成果を上げていると認められるが、共生委員会7期14年の終了に際し、すべてについて14年間の点検結果のとりまとめを行い、「共生委員会記録集」(仮称)に収録することとした。
ロ. 懸案事項への対応
W値の逆転現象への対応
 2007(平成19)年7月20日、騒音評価指標(Lden)研究会を立ち上げ、3回の研修を行った。
 その結果、最優先で取り組むべきことは、夜間の騒音を軽減することであり、次の点について関係者の意識的な連携・協力が必要である。
22時台の便数の遵守
航空機の新機種(低燃費・低騒音)への転換を促進
新たな騒音評価方式への移行にあたっては、住民感覚により近づくよう改善を図る。
22時台の便数(10便/日)の遵守
 22時台の便数については、関係者の努力により改善傾向が見られるものの、依然として遵守には至っていない状況である。
 国土交通省による航空会社へのヒアリング調査の結果、22時台の便数が遵守できない主な要因は、21時台の出発便の遅れにあった。そのため、国土交通省は運航スケジュールの調整に努めている。
 国土交通省と空港会社は、暫定平行滑走路の運用時間を、2009年夏ダイヤ開始日から4000m滑走路と同じ6時から23時までとする旨を2008(平成20)年11月14日に発表した。
 今後、制限解除にあたっては、22時台の運航に影響を及ぼさないようなスケジュールの調整に努めなければならない。
 さらに、平行滑走路が2500mで供用開始になる時点では、両滑走路において、22時台運航の合意事項を遵守できるように、航空会社に働きかけを行う必要がある。
2) 情報公開
 2007(平成19)年10月26日、空港会社から「情報公開の新しい展開案」が提出され、今後の具体的な取り組みは、次の点に重点をおくとの報告があった。
簡明なパンフレット(民家防音工事助成制度)の作成
「くうこうだより」に地域コミュニケーションコーナーを設置
災害・事故緊急情報のテレホンサービスの検討
クウタン(地域国際人)クラブ・プロジェクト(仮称)の設立
 2008(平成20)年4月16日、簡明なパンフレットについては、関係市町や共生財団の担当者と相談しながら、当面、窓口へのアクセスを分かりやすくするという観点で作成することを決めた。
 9月9日、空港会社から「情報公開の新しい展開への取り組み状況」について報告を受けた。
くうこうだよりに「地域共生コーナー」の掲載を開始
緊急時の情報提供は「NAA成田国際空港インフォメーション」で対応
職場体験への協力、中学生の海外派遣事業を実施
 また、簡明なパンフレットについて協議し、一般向けと窓口向けに分けて作成するよう求めた。
 12月17日、空港会社から簡明なパンフレット「防音工事のお悩みありませんか?」(一般向け)、「住宅防音工事相談への対応について」(窓口向け)を発行するとの報告を受けた。
 
地域交流
 2007(平成19)年9月28日、多古町騒対協との交流会を行った。国土交通省から「首都圏空港(成田・羽田)を巡る最近の動きと今後の展開」、空港会社から「成田空港の現状ととりまく状況の変化」について報告があり、意見交換を行った。
 2008(平成20)年4月16日、空港会社から空港開港30周年記念として、成田空港の歴史を振り返る企画展示の開催や、年間を通じて記念行事を行うことなどが報告され、これらに協力することとした。
 10月10日、多古町騒対協との交流会を行った。国土交通省から「首都圏空港における国際航空機能拡充プラン」、空港会社から「成田国際空港の現状と今後の取り組み−環境対策・地域との共生を中心として−」について報告があり、意見交換を行った。
 11月20日、共栄型地域交流会を行った。関係市町における団体として成田市から「成田空港通り活性化協議会」、富里市から「富里の明日を考える会」、芝山町から「芝山町『空港と暮らし』推進協議会」、多古町から「多古町異業種交流青年会火曜会」の4団体、航空会社からANA、観光関係会社としてJTBが出席し、それぞれの活動内容や空港との関係などについて報告があった。また、国土交通省、千葉県、空港会社、関係6市町も出席し、意見交換を行った。
 
(3) 共生スタディグループ
基本的事項に関する情報交換
 2007(平成19)年4月16日、国土交通省から「今後の国際拠点空港のあり方に関する懇談会報告」、空港会社から「成田国際空港(株)完全民営化に向けた検討状況」について、それぞれ説明を受けた。
 6月27日、国土交通省から「交通政策審議会航空分科会答申報告」、「アジア・ゲートウェイ構想報告」、千葉県から「成田空港と羽田空港のあり方に関する意見」、「地域づくり部会」について報告を受けたほか、千葉力創造研究会、芝山町・成田空港共栄推進委員会からの報告、空港会社の新体制について説明を受けた。
 10月26日、国土交通省から「成田空港会社の完全民営化に向けた検討状況」について説明を受けた。
 
「記録集」作成の準備
 2008(平成20)年3月5日、「共生委員会記録集編集委員会」を設置し、3回の委員会を開催した。委員会では、記録集のイメージや編集体制を作業の進捗状況に応じて確認し、作業チームでは、概略年表の作成や時期区分、執筆のための素材整理等の作業を行った。
 
新共生スキーム移行に向けて
 2008(平成20)年3月5日、1月31日の共生四者協議(国、千葉県、空港会社、共生委員会)でまとめた「新しい共生スキームの検討に向けて」について協議した。共生委員会としては、なるべく早い時期に、新共生スキームプロジェクトチーム(PT)との意見交換の機会をもつことを確認した。
 5月23日、共生スタディグループ(SG)として「たとえ新しい共生スキームがどういう形になろうとも、地域、住民が当事者になるようなシステムがなければならない」ことを確認し、具体的には今後の状況をみて対応することとした。
 9月9日、9月5日の共生四者協議でまとめた「新しい共生スキームの構築に向けて」について協議した。論点を整理し、9月19日の第63回共生委員会で意見表明することを確認した。
 12月12日、新共生スキームPTと「新共生スキーム(案)」について意見交換を行った。
 
歴史伝承プロジェクトの検討
 2007(平成19)年11月14日、歴史伝承委員会から「活動成果報告」の提出を受け、共生SGで検討、歴史伝承プロジェクトは継続するとの方向性が出された。
 2008(平成20)年4月16日、歴史伝承プロジェクトのあり方について、空港会社から「歴史伝承の新展開(NAA素案)」が示され、説明を受けた。素案の基本的考え方は、歴史伝承プロジェクトの継続、空港会社の事業として実施、常設展示施設の整備の3点であり、これを受けて、共生SG、新共生スキームPTでそれぞれ議論し、引き続き検討していくこととした。
 9月9日、空港会社から、9月5日の共生四者協議でまとめた「歴史伝承プロジェクトについて」の説明を受け、今後の対応として、第三者性・公平性の担保、収集資料の帰属に対する措置、常設展示施設の整備について了承されたことを確認した。
 12月12日、新共生スキームPTと「歴史伝承プロジェクト(案)」について意見交換を行った。
 
3.新しい共生スキームへの移行
 新しい共生スキームへの移行については、新共生スキームPTによって検討されたが、共生委員会としても、必要に応じて協議した。
 2008(平成20)年12月17日の共生四者協議において、「新共生スキームについて」、「今後の歴史伝承プロジェクトの展開について」が関係者間で合意された。また、12月22日の第64回共生委員会に諮り、共生委員会としてこれを承認した。概要は、以下のとおりである。
(1) 新しい共生スキームへの移行の背景
 共生委員会や共生財団など、いわば「成田方式」とも言える制度が創設され、さまざまな環境対策・共生策が推進された結果、今では地域は明るさを取り戻している。成田における共生スキームが他に例を見ない独自の実績を積み重ねてきたことは高く評価できる。共生委員会は共生スキームの中核的存在として、「共生」という理念の実現、地域と空港との信頼関係の強化などに大きな役割を果たしてきた。
 現在、成田空港をとりまく状況は大きく変化し、成田空港については、株式を上場して民営会社とする方向で検討が進められている。他方、地域においては、空港からのマイナスの影響の軽減と並んで、空港を最大の地域資源と位置づけ、地域が主体的に参画して、空港と周辺地域が共に栄え、地域づくりを通して発展していくことをめざす「共栄」という考え方が広まりつつある。
 こうしたことは共生委員会発足時には想定されていなかった事態であり、これらの新たな課題にも対応するため、「共生」という理念を堅持しつつ、新たな体制を構築していくことが求められている。
 
(2) 新しい共生スキーム
 共生委員会は第7期終了を機に、発展的に解消する。その際に留意しなくてはならないことは、共生大綱において「地域と空港との共生という理念は、成田空港がこの地にある限り続く永遠の課題」としているように、将来に渡って「共生」の理念を着実に継承していくことが不可欠だということである。
 新しい共生スキームでは、地域と空港との対話の場を確保するなど「共生の理念」を引き続きベースとして、マイナス面に関する事項だけでなく、並行してプラス面の新たな課題にも対応できる体制を構築する。
 新しい共生スキームの構築については、空港会社の法制度や今後の株式上場問題など、状況の推移を見定めなければならない問題があり、不確定要素が多いため、新たな法制度の実施状況や共生財団との関係も視野に入れ、新しいスキームのあり方を関係者間で改めて検討する。
 
(3) 過渡期の体制・業務
 新しい共生スキームの構築には、相当程度の時間(例えば1〜2年)がかかることが予想されるので、当面、暫定的な組織を2009(平成21)年4月1日に発足させ、いわば「つなぎ」的役割を果たせるよう措置する。暫定的な組織においても、住民と空港の対話や相談の場として、「共生の理念」をベースとして、マイナス面に関する事項だけでなく、並行してプラス面の新たな課題にも対応する。
組織の位置づけ
 地域振興連絡協議会の下に置く。
名称
 発足までに改めて検討する。
業務
1) 地域住民と空港との対話などの「共生」に関すること
 成田空港をとりまくマイナス面の新たな課題や、円卓会議合意事項のうち、いまだ達成していない事項について、お互いを認め合い、適正な相互理解のもとに解決するという「共生の理念」に基づいて、双方向の対話を進めていく。
2) 地域づくり、交流会などの「共栄」に関すること
 プラス面の新たな課題にも取り組むが、ここでは、自治体の行う「地域づくり」とは異なる、住民の自発的な活動を核とする。
3) 暫定組織の次のスキームに関すること
メンバー構成
 地域住民(2〜3名程度)、空港関係地元団体、学識経験者、国、千葉県、関係市町(3自治体程度)、成田空港会社とする。
 
(4) 歴史伝承プロジェクト
 歴史伝承プロジェクトについては、新共生スキームへの移行が議論されるなかで今後の展開について検討した結果、2008(平成20)年4月に「NAA素案」が示され、国、千葉県、空港会社などの関係者間において「歴史伝承プロジェクトは継続」、「NAA事業として実施」、「常設展示施設の整備」といった基本的な方針が確認された。
 なお、NAA事業として歴史伝承プロジェクトが継続することを踏まえ、NAAは国、千葉県などの関係者の協力を得て、従来の歴史伝承委員会に代わる組織として、次のようなプロジェクトチームを設置し、当面、常設展示施設の整備を中心にプロジェクトを推進する。
チームの位置づけ
 歴史伝承プロジェクトに関する社長の諮問機関
体制
1) 座長・・・・地域共生担当役員
2) 構成員・・・・空港会社、国、千葉県、歴史伝承委員会顧問・座長・座長代理、
        (航空科学博物館)
3) 地域専門部会・・・・歴史伝承委員会の委員(空港周辺地域住民)を主体とした
            専門部会(プロジェクトチームの構成員を除く)
業務内容
1) プロジェクトチームの業務内容
イ.展示施設の場所の決定
ロ.展示施設の規模、機能の検討
ハ.展示施設の運営方式の検討
ニ.その他必要と認められる事項
2) 地域専門部会の業務内容
イ.展示施設や展示内容についての意見聴取等
ロ.第三者性、公平性の確保
事務局
 地域共生部
業務開始時期
 2009(平成21)年4月
 
おわりに
 共生委員会は第7期において、激しく変化する社会状況のなかで、主要業務である円卓会議合意事項の点検の総括をはじめ、「共栄型」の地域交流会の開催、情報公開の一環として空港会社が作成する簡明なパンフレット(民家防音工事編)の検討などを行った。さらに、これまで継続してきた業務を総括し、これを「共生委員会記録集」(仮称)としてとりまとめる準備を進めた。
 並行して、新共生スキームへの移行の検討を行った。その結果、共生委員会は第7期終了を機に発展的に解消することとし、2009(平成21)年1月9日をもって幕を引くこととなった。
 ここで、あえて今後の方向性について集約すれば、次のようなことになる。
 地域と空港の共生は、「空港を運営する側が、空港によりデメリットを受ける住民に対しどのような理解を示し、血の通った対策を講ずるかが、空港がその地域社会の一員として存続し得る必須の条件になる」(隅谷調査団所見)との考え方を土台としており、共生大綱でも「地域と空港との共生という理念は、成田空港がこの地にある限り続く永遠の課題である」としている。将来にわたって、そういう視点から共生の理念を着実に継承していくことが不可欠である。
 新しい共生スキームにおいても、お互いを認め合い、相互理解のもとに懸案を解決するという「共生の理念」が確実に引き継がれなければならず、まして「共存共生から共栄へ」という新しい動きが兆してきていることを考えれば、共生という土壌をしっかりと耕し、その上に共栄の花を咲かせることが肝要である。

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